2022.09.22 放送 協力雇用主会

MC: 今日(きょう)は、尼崎市で長年、更生保護活動に協力しておられる 池邉さんにお越しいただいています。

池邉: こんにちは、よろしくお願いします。

MC: 池邉さんは、協力雇用主会の会長をしておられるそうですね。

池邉: はい。 大阪市西淀川区で鉄工所をしているのですが、平成13年頃に尼崎市内の企業主の方から 強いお誘いをいただき、協力雇用主会の一員となりました。

MC: 以前この番組に出演してくださった保護司さんから、尼崎市の協力雇用主会は、(きん)友会(ゆうかい)という美しい名前で呼ばれているとお聞きしました。 この(きん)友会(ゆうかい)の成り立ちを教えていただけますか。

池邉: 承知しました。 今から60年前、昭和36年10月に、神戸家庭裁判所 尼崎支部から要請を受けまして、会員36名でスタートしました。設立の趣旨は、『罪を犯した青少年を 社会の中で 一般の人々と同じような生活をさせながら 更生させる』というものでした。 更生保護活動の中で、特に仕事を通じて職業訓練をし、これらの青少年と、生活を共にしながら日常生活上の助言もし、一般社会へ復帰させることを目指しています。

MC: なかなか大変な活動ですね。

池邉: そうですね。 我が国における刑法犯の犯罪件数は 平成14年をピークに、全体として減少しているのですが、残念なことに、再犯者、つまり刑を償って刑務所から出て来た人が 再び罪を犯してしまう場合が多いのです。 令和3年には、その年に発生した犯罪のほぼ半数が 再犯者によるものでした。そのような状況もあり、尼崎市でも再犯防止対策が進んでいます。

MC: そうですか。 

池邉: 罪を犯し、保護観察を受けている青少年や、刑務所を出所してきた人たちが立ち直るためには、居場所と出番、それから心の支えが必要です。住む場所、仕事、対人支援の三本柱が重要なのです。

MC: よくわかります。

池邉: これまでは、保護観察所の観察官と 民間ボランティアの保護司が二人三脚で協力して、このような人たちの更生を支援してきました。 しかし近年は、幅広く関係機関や民間団体とネットワークを作り、支えていこう、という流れが強まっています。私たちの協力雇用主会も この中に入っています。 

   協力雇用主は、犯罪や非行に陥った人を積極的に雇用し、その更生を支援する地域のボランティアです。 犯罪や非行の前歴のために 定職に就くことが容易でない、刑務所出所者などを、その事情を理解した上で雇用し、改善更生に協力する民間の事業主なんです。

MC: 就職するためには、履歴書を用意する必要がありますが、その際、刑務所に入っていた期間をどうするか、というのもご本人には大きな悩みですよね。そのような事情を、最初から 理解して雇ってもらえるのは、たいへん嬉しいことだと思います。

池邉: 基本的には、雇い主としてですが、本人の保護者代わりとして、私生活の悩み事の相談に乗ったり、叱咤激励したりすることもあります。

MC: なるほど。

池邉: 受刑者や少年院在院者が、刑事施設に入っている間に、施設から出た後の就職先を あらかじめ確保できれば、彼らの円滑な社会復帰に効果的であり、何より再犯防止につながることから、法務省では、平成18年度より厚生労働省と協力して、総合的な就労支援対策を行っており、その施策の一環として「協力雇用主」制度を実施しています。 

MC: 昭和36年に設立された尼崎市の協力雇用主会、(きん)友会(ゆうかい)は、時代を先取りしていたわけですね。

池邉: 昭和41年、ちょうど尼崎市制50周年の年ですが、尼崎市保護司会が更生保護制度15周年の記念誌を出しています。それによりますと、琴友会会員は、神戸家庭裁判所 尼崎支部の認定を受け、試験観察となった非行少年の職親(しょくしん)として 少年を受託することができる仕組みになっており 全国的にも稀な会である、とあります。 

MC: 職親(しょくしん)って何ですか。漢字では しょく・おや と書きますが。

池邉: 2013年には 職親プロジェクトというのが始まりました。再犯防止の趣旨に賛同する企業が、少年院や刑務所などの矯正施設出所者を、積極的に採用し、「職」を通じて「親」のように見守ることで、出所者たちの円滑な社会復帰を支援していくという試みです。一人ひとりの更生を、協力雇用主会の参加企業みんなで支える、 そして参加企業が抱えた課題や解決を 参加企業や専門家みんなで考え、議論し、互いに支え合う。 このプロジェクトでは、参加企業、法務省、矯正施設、専門家など、様々なメンバーで、 再チャレンジできる社会、新たな犯罪被害をうまない社会を目指しています。

犯罪は許されることではありません。そして、再犯を防がない限り、犯罪被害で悲しむ方はなくなりません。 一度罪を犯した人が、本当に気持ちを改め、罪を犯さぬよう社会復帰しようと望んでも、 社会の厳しい目や反発などが原因で、叶わないのが日本の現状です。それは、刑務所出所者や少年院退院者が 幾度と犯罪を重ねる悪循環に繋がります。その悪循環が起これば犯罪の被害に悲しむ人が増えることになります。日本が安全・安心な国になるためには、再犯を防ぐことが欠かせません。

MC: おっしゃるとおりです。そのための就労支援、そしてそれを支える協力雇用主会

  が大変重要であることがよくわかりました。ところで、これまで池辺鉄工所で就労支援をした例はたくさんあると思うのですが、ご紹介いただけますか。

池邉: はい。平成20年8月末、尼崎市教育委員会事務局教育総合センターで研修を受けた後、琴友会を通じて、A君(15歳)を紹介されました。面接をして雇用し、9月1日からの出社となり、本人も「真面目に仕事に取り組みたい」と約束をしてくれました。 2週間後、尼崎工業会の技能アカデミーでの「ガス溶接技能教育」を申込み、免許を取るんだ、と張り切っていました。ところが、9月20日頃から欠勤するようになり、連休明けには出社しなくなりました。家に電話すると、お母さんが出られ「いつも通り、朝、作業着で家を出ています」とのことでした。9月25日、本人が家にいることを確認し、彼の家を訪ね、話をしました。本人は理解し「明日から出社します」と約束してくれました。9月30日の給料日、会社の前に、友達が3~4人待ち構えていました。翌日から出社しなくなり、連絡をしてお母さんと話をしても、いっこうに本人とは連絡がつきませんでした。そして10月中旬に、会社へ電話があり、「辞めます」と。 やはり、昔の友達と縁を切ることが出来なかったのかな~、と非常に残念な気持ちになりました。

MC: 池邉さんの気持ちは彼にも、彼のお母さんにも届いていたと思いますが、難しいですね。

池邉: もう一つの例です。平成21年8月、この少年も琴友会からの紹介でした。面接後、採用決定し、8月5日より出社してもらうことになりました。この少年は、「NPO法人 全国更生保護就労支援会の 身元保証システム」の対象者として、神戸保護観察所より認定された少年でした。身元保証システムの対象者でしたので、「トライアル雇用」として 法務省から支払われる奨励金を申請しました。さまざまな制度からも応援を受けた彼でしたが、残念ながら 11月5日に退職しました。16歳という若年者でしたので、他の職業、例えば、コンビニやハンバーガーショップ、ゲームセンターなどでの仕事に比べると、鉄工所の仕事は、きつくて、汚れる、危ない、等々 辛抱できなくなったんじゃないか、と思います。

MC: それは残念でしたね。 

池邊: 好事例としては私の会社ではありませんが、個人企業主の親方が奥様と一緒に、親身になって世話をしてくださったおかげで、一人の少年が無事保護観察を終え、更生を果たした、という例や、3年間真面目に仕事を続け、自立した例も聞いたことがあります。

MC: ところで、協力雇用主の(きん)友会(ゆうかい)には、どのような事業所の方が会員になっておられるのでしょうか。

池邉: 建築関係、鉄工所などが多いですが、飲食店、老人介護施設、葬祭や観光に関連する会社もあります。 今後は、理容・美容とか、小売業や運送業など、これまであまりなかった分野の事業所が加わってくださるといいな、と思っています。

  全国に先駆けて発足した、琴友会の仲間が増えて、やり直せる社会、住みやすい・住みたい尼崎になるよう、安全・安心な街づくりに協力したいと思います。 

MC: 今日は、更生保護活動で大きな役割を果たしておられる、協力雇用主 尼崎(きん)友会(ゆうかい)

  池邉会長にお話を伺いました。池邉会長、有難うございました。

池邉: ありがとうございました。